言葉が通じない。 心も伝わらない。
思いはどこにも届かない。 かつて神の怒りにふれ、言語を分たれた人間たち。 我々は、永遠にわかり合うことはできないのか。 |
Calendar
NewEntry
Profile
Category
Archives
Search
Link
Favorite
Mobile
Sponsored Links
|
スポンサーサイト
一定期間更新がないため広告を表示しています 2010.03.18 Thursday
- - 深い河
「どんな時代もオスとメスの間にはとてつもなく深い河が流れておるものじゃ」
老人は光沢のある白髭を一度、二度となく撫でている、 「貴兄じゃったらどうするかね、もしあんたの嫁さんが河のはるか向こう側で豆粒のようにしか見えんくらいなんじゃけど手をこう、必死に振っとるんじゃ。あんたやったらどうするかね。」 老人は、手をこう、と両手をぐらっとあげた瞬間に強烈な腋臭がその空間中に広がったんで男はおもわず顔を背けたんだけど聞いてるのか?と背中をぴしゃりとやられたもんだから、熱のこもった息をぷはあと吐いた、歯痛た、痛かった、てか臭かった。 え?どうやって橋をかけるかってことじゃないの? 「そうじゃ、橋でもなんでもかまわん。どうかわしの愛しのベイベを救ってやってくれんかの」 あんたのかよ、とルミは突っ込む、突っ込む、アタマを突っ込む、先っちょだけ突っ込む、だけど突っ込まれたくはない。 ルミは考えるふりをしながら、男からの着信を待っている。 男は臭いし痛いし熱い、んでもって、ん?なんでおれはここにいるんだ?と考えている。 そして、僕が登場。 どうやってまず橋をかけるかだ。 周りには木々が生い茂っているイメージだからけっこう伐採し、かなり伐採し、もうすごい伐採し。こうやってああやって、はい!できた。ほら、橋だよ。橋の中の橋。安くしとくよ。 「非力である。繋ぎ合わせても持つことさえできない。」 僕は眠くなったのでさようなら、もう寝るよ、スウィートドリーム。 ルミは二つ折携帯を開けたり閉めたり開けたり閉めたり開けたり閉めたり開けたり閉めたり明けたり絞めたり、苦しい、ルミは本当に苦しそうだ。 そして、男が登場。 所詮、河だろ。考えろよ。 河はどっから流れてるんだ?あ?ん?流れ着く先はそりゃ海さ、母なる海。 俺が聞いてるのはどっからだってんだ。そうさ、葉っぱっぱにうすうううく降り積もった朝露の一滴、葉っぱっぱの上をころころころころころがりながら大きくなって葉っぱっぱより重くなっちまってある日に思わず落ちちゃった、うわーうわーってできたのが水溜り、きゃあきゃあって溢れて流れ出したのが液体を動かした地球の引力のおかげなんだぜ。海は葉っぱっぱに弾かれたあのわずかな朝露くんの時間とエネルギーの、結合で、あって、あ、あれ、なんで、ここにいるんだっけ、あ、そうか、河の話、だから上流に行ってこいよ、向こう側でも宇宙でも渡れるぜ。あ、くせえ、あ、いてえ、あ、あちい、あ、なんだここは、お前だれ? 「男、または女、どちらか一方がそれを裏切りととるかもしれない。愛であれ、なんであれ、難であれ、言葉さえ届かない距離なんだから!!」 男は死にたくなった、記憶がそうさせる、失うことへの恐怖、恐怖=美 僕は目覚める。二度寝。目覚める。うなる。目覚めさせる。アラームで。恐怖のアラーム。のぶお、おきなさい、おきなさい、もうなんじやとおもってんの、ええかげんにしなさい、あんたきょうがっこうやすみなん?ちがうやろ、はやくおきなさい、まにあえへんよ、ほらはやく、がっこういきなさい、やすむつもりなん?おきなさい、もうけびょうはつかわれへんよ、ほらなにしてるの、はやく、ほらはやくしなさい、おきなさい、 僕の右腕はおかんの脳天直撃、血まみれの手を舐めながらもう一度眠る。 ルミの電話がバイブする。股に挟んでいたんだな、このあばずれが。ルミは携帯を逆に折りたたむと老人に向かってこう言い放つ。 あきらめるんだよ、何もかも。 互いに肩をすくめ、口をへの字にして、黙り込みしゃがみこむ。 「頬がこけ、尿を垂れ流しながらも、そのまま、見つめあいながら、どちらかがパタリと倒れ込むまで、時が河の水を全て押し流すまで」 老人はもう一度ゆっくりと白髭を撫で、コホンと喉を鳴らし、ニャアと鳴いてどこかへ言ってしまった。 ルミ、僕の携帯、使う? 女は男に電話をかける。 今、どこ? 今、深い河をはさんで君の向こう側にいるよ。見える?おーい、ほら。おーい。 見える。愛してる。 僕もだよ。おーい。 |